常足庵備忘録

注:メモ書き程度なのでくれぐれも参考になさらぬよう

『潙山警策』の読み下し文です

「潙山警策講義」山田孝道著を参考に読み下しにしてみました、漢字仮名遣いは古いままです。

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原文はこちらです  潙山警策

潙山警策

第一章 色身の大患を示す

其れ業繋身を受く、未だ形累を免れず。父母の遺體を禀け、衆縁を假りて共に成ず。乃ち四大を扶持すと雖も、常に相ひ違背す。無常老病人と期せず、朝に存し夕に亡じ、刹那に世を異にす。譬えば春霜暁露の倐忽として即ち無きが如し、岸樹井藤、豈に能く長久ならんや。念念迅速なること、一刹那の間なり、息を轉ずれば即ち是れ來生何んぞ乃ち晏然として空しく過さん。

第二章 出家の流弊を懲す

父母に甘旨を供せず、六親固に以って棄離し、國を安じ邦を冶ること能はず、 家業頓に繼嗣を損つ、緬に郷黨を離れて、髪を剃って師に禀く、内には克念の功を勤め、外には不諍の徳を弘め、逈に塵世を脱して、冀って出離を期すべし。 何ぞ乃ち纔に戒品に登れば、便ち言う我は是れ比丘なりと、檀越の須むる所、常佳を喫し用ひ。來處を付思することを解せず、謂言らく法薾として供に会ふと、喫し了って頭を聚めて喧喧として但だ人間の襍話を説く。然ば則ち一期の楽を趂う、楽は是れ苦の因なることを知らず。嚢劫塵に循ひ、未だ甞て返省せず、時光淹没し、歳月蹉跎たり、受用殷繁にして施利濃厚なり、動もすれば年載を經て棄離を擬せず、積聚すること滋すます多くして、幻質を保持す。導師勅有りて比丘を誡勗す、道に進み身を嚴しみ三常に足らざれと、人多く此に於いて、昧に耽りて休まず、日徃き月來り颯然として白首なり。後學未だ旨趣を聞かずば應に須く博く先知に問ふべし將に謂へり出家は衣食を求むるを貴しとすと。佛先ず律を制して啓創して蒙を發く軏則威儀淨きこと氷雪の如し、止冶作犯初心を束歛す、微細の條章、諸の猥弊を革む、毘尼の法席、曾て未だ叨りに陪せず、了義の上乗、豈に能く甄別せんや惜む可し、一生空しく過して後悔追ひ難きことを。教理未だ嘗て懐に措かず玄道契悟するに因無し、年高く臘長 ずるに至るに及んで、空腹高心肯て良朋に親附せず、惟だ倨傲のみを知る。未だ法律を諳ぜず、戢歛全く無し、或は大語高聲にして言を出すに度無し、上中下座敬せず、波羅門の聚會に殊なる無し、碗鉢聲を作し、食し畢て先ず起つ、去就乖角して僧體全く無し、起坐忪諸にして他の心念を動ず、些些の軌則、小小の威儀を存せず、何を將てか後毘を束歛せん、新學倣ひ傚ふに因無し、纔に相覺察すれば便ち言ふ我は是れ山僧にして未だ佛教の行持を聞かすと、一向に情に麤糙を存す。斯くの如きの見は 葢し初心たるとき慵惰饕餮して因循たり、 荏苒たる人間遂に疎野を成す。龍踵老朽することを學えず、事に觸れて面墻す、後學咨詢すれども接引するに言無し、縦ひ談説すること有るも典章に渉らず、 或は輕言せられば便ち後生の無禮を責め、嗔心忿起して言語人を該ぬ。一朝病に臥して牀に在れば衆苦縈纒逼迫す、暁夕思忖して心裏徊徨す、前路茫茫として未だ何にか往くを知らず玆れ從り始めて悔を過ゆるを知る、愒に臨んで井を掘るも奚か爲ん、自ら恨む早に預め修めず、年晩れて諸の過咎多きことを。行に臨んで揮霍して怕怖慞惶す、穀穿ち雀飛んで識心業に隨ふ、人の債を負ふが如く、強き者先ず牽く、心緒多端にして重處に偏墜す、無常の殺鬼、念念停らず、命延ばす可らず、時待つべからず、人天三有應に未だ之を免れざるべし、是の如く身を受くること、劫數を論ずるに非ず。感傷歎訝、哀い哉心を切む、豈に言を縬ぐべけんや、遞に相警策すべし、恨む所は同じく像季に生れ聖を去ること、時遥かに佛法生疎にして人多く懈怠す、略管見を申べて以て後來を曉す、若し蠲矜せずば誠に輪を逭れ難し。

第三章 出家の正因を明す

夫れ出家者は發足超方心形俗に異り聖種を紹隆し魔軍を震懾し用て四恩を報じ三有を抜濟すべし、若し此の如くならずんば濫に僧倫に厠るのみ。言行荒疎なれば慮りに信施に沾ふるのみ、昔年の行處、寸歩も移らず、恍惚として一生何を將て憑恃せん、况んや乃ち堂堂たる僧相容貌観る可し、皆是れ夙に善根を植えて斯の異報を感ず、便ち端然として手を拱かんと擬す、寸陰を貴ばず、時時勤めず、功果克よく就すに因みなし、豈に一生空しく過す可けんや、抑も亦た來業裨くる無し。親を辭し志を決っして緇を披す、意何所に等超せんと欲す、 暁夕思忖して豈に遷延して時を過す可けんや、心に佛法の棟梁を期し、用て後來の亀鏡と作るべし、常に以て此の如くなるも未だ小分の相應すること能はず。 言を出すには須く曲章に渉るべく、談説は乃ち稽古に傍るべし、形儀埏特して 意気高閑に遠行には要ず、良朋を假りて數數耳目を淸め、住止には必ず須く伴を擇び、時時に未聞を聞くべし、故に云ふ我を生む者は父母、我を成す者は朋友なりと。善者に親附すれば霧露の中に行くが如し、衣を濕さずと雖えども時時に潤ひ有り、悪者に狎習せば悪知見を長じ、暁夕悪を造り、即目報を交え、沒後に沈淪す、一たび人身を失へば萬劫にも復らず、忠言は耳に逆ふも豈に心に銘ぜざる者ならん哉、便ち能く心を澡ひ徳を育ひ跡を晦し名を韜くし素を蘊み神を精ずれば喧囂止絶す。

第四章 入道の由徑を示す

若し禅に参じ道を學し頓に方便の門を超え、心玄津に契ひ、幾を精要に研め、深奥を决澤し、眞源を啓悟せんと欲せば、愽く先知に問ひ、善友に親近すべし、 此宗、其妙を得難し、須く子細に用心すべし。可の中頓は正因を悟れば便ち是れ出塵の階漸、此れ則ち三界二十五有を破するなり、内外の諸法、盡く不實にして心從り變起して悉く是れ假名なりと知べし。心を將て湊泊することを用ひざれ、但だ情物に附せずんば物豈に人を礙んや、他の法性の周流に任せて、斷つこと莫く續ぐこと莫れ、聞聲見色、蓋し是れ尋常這邊那邊應用闕ず。斯の如くの行止、實に抂げて法服を被せず、亦た乃ち四恩を酬報し、三有を拔濟し、生生若し能く退かずんば佛階決定して期すべし、三界に往來するの賓出沒して他の爲めに則と作るべし、此の一學、最妙最玄、但だ肯心を辨ぜよ、必ず相ひ賺さず。若し中流の士有りて、未だ頓に超ゆる能はずんば且く教法に於て心を留め、貝葉を恩尋し、義理を精搜し、傅唱敷揚し、後來を接引し、佛の恩に報ぜん、時光亦た虚しく棄てず、必ず須く此を以て扶持すべし、佳止威儀あり、便ち是れ僧中の法器なり。豈に見ずや松に倚るの葛は上千尋に聳ゆ、勝因に託附して方に能く廣益す。懇に齋戒を脩め、謾に虧踰すること莫れ、世世生生殊妙の因果あり、等閑に日を過ごし兀兀として時を度る可からず、光陰惜む可し、升進を求めずんば徒に十方の信施を消す、亦た乃ち四恩に辜負す、積累轉た深く心塵壅り易し、途に觸れて滯を成し、人に輕欺せらる、古に云く彼れ既に丈夫、我れ亦た爾り、應に自ら輕じて退屈すべからず、若し此の如くならずして 徒に緇門に在らば荏苒として一生殊に益する所無し。

第五章 結勤叮嚀

伏して望らくは決烈の志を興し、徳達の懐を開き、擧措他の上流を看るべし、 檀に庸鄙に隨ふこと莫れ、今生に便ち須く決斷すべし、想ひ料るに別人に由らず、意を息め縁を亡じて諸塵と對を作さざれ、心空に境寂なり、只だ久遰の爲に通ぜず、斯の文を熟覧して時時に警策せよ。強めて主宰と作れ、人情に狥ふ莫れ、業果の牽く所、誠に逃避し難し、聲和すれば響順ひ、形直れば影端しく、因果歴然たり、豈に憂懼無からんや、故に經に云く、假使百千劫も造る所の業は亡ぜず、因縁會遇の時、果報還て自ら受く、故に知る三界の刑罰縈絆して人 を殺す、努力勤脩せよ、空しく日を過ごす莫れ。 深く過患を知て方に乃ち相ひ勸めて行持せしむ、願くは百劫千生處處に同じく法侶と爲らん。

幻身夢宅は空中の物色なり前際窮り無く、後際寧ぞ剋せん。

此に出て彼に沒して、升沈疲極す、未だ三輪を免れずんば何の時か休息せん。

世間を貪戀して陰縁質を成す、生より死に至るまで一も所得無なし。

根本無明玆れに因て惑はさる、光陰惜むべし刹那測られず。

今生空しく過さば來世窒塞す、迷從り迷を積むことは皆六賊に由る。

六道に往還し三界に匍匐す、早く明師を訪ひ高徳に親近すべし。

身心を決擇し其の荊棘を去るべし、世自ら浮虚なり、衆縁豈に逼らんや。

法理を研窮して悟りを以て則と爲す、心境倶に捐て記する莫れ憶する莫れ。

六根怡然として行住寂默なり、一心生ぜざれば萬法倶に息む。